数学準備室に連れてこられた私はパイプ椅子に座りながら紅茶を飲んでいた。
勿論、先生が淹れてくれたものだ。
先生はというと優雅に紅茶を啜りながら私を見ていた。


「……」

「……」


先生が私の言葉を待っている、という事は分かっている。
だけど、中々話す事が出来なかった。


「……まあ、大体の事は分かっていますが……」


先生は諦めた様に喋り出した。
いくら待っても私がさっきの状況を説明するるとは思えなかったのだろう。
全くのその通りだが。
と、言うか。


「分かっているって……」

「大方、高岡くんのファンの方に目を付けられたのでしょう?
彼はモテますから、噂があるキミが標的になる事は可笑しい事ではありません」


先生の言葉に黙り込んでしまった。
これじゃあ図星だと言っている様なものなのに。
でも、どうしても先生に嘘はつきたくなかった。
だからといって喋るとは限らないけど。
口を閉じていれば先生は私に向かって手を伸ばした。


「キミがあの子たちと一緒に歩いているのを窓から見ました。
とても仲の良い空気とは思えず、何かあったらと考えるだけで、胸が痛くて痛くて……」


ポンと私の頭にのる手。
優しくて温かくて。
心配を掛けているというのに、凄く嬉しかった。


「先生……」

「キミから笑顔が消えるのはもう見たくないんです。
あの時の様に、絶望に満ちた顔はもう見たくない」

「あの時……?」


先生はいつの事を言って。
首を傾げれば先生はハッとした様に首を横に振った。


「いえ、とにかく。
……無事でよかったです……」


先生はそう言って微笑むと私の頭をポンポンと叩き始めた。
どこか懐かしいその手つきに私は不思議な感覚を感じた。