「テメェ……いい加減に……」

「何をしているんですか?」


女の子が私の胸ぐらを掴みあげたその時。
女の子越しから優しい声が聞こえてくる。
聞き慣れている声のはずなのに少し低く感じたのは私の気のせいだろうか。


「あ、蒼井先生……」


女の子が怯えた様に後ろを振り向く。
女の子の間から見えるのはいつもの笑顔を浮かべた先生だった。


「その手を離して下さい」

「こ、これはその……」


女の子は胸ぐらを離そうとしなかった。
それよりいい訳を考えてるって感じだな。


「いいから離して下さい」


先生はさっきより大きな声で言う。
顔は笑顔のままだったけど、どこか怒っているのが分かるそんな表情。
女の子たちは、ピクリと両肩を揺らして私から手を離した。


「何があったかは知りませんが……。
僕の大切な生徒に何かあったら許しませんよ」

「蒼井先生!ちがっ……」

「行きましょう、高瀬さん」


先生は女の子たちのいい訳を聞こうともせずに私の腕を掴むとスタスタと歩き出した。


「先生……?」

「着いて来てください」


先生はそれ以上は喋ることなく歩き続けた。