その瞳には、先ほどのような不安の揺らぎはなくて……ただ、あたしだけしか映していない。
胸の奥が、トクンと脈打つ。
「じゃあ、今から言うから、ちゃんと聞いてなよ。……いい?」
予告する彼の言葉を聞きながら、ふと、さっき机の上に置いた12本の赤いバラの絵が目にとまる。
……あ、そういえば、あの絵の意味……。
どこか頭の片隅でそのことを思い出したが、すぐに彼の熱い吐息があたしの耳に近づいてきたことによって、思考が遮断される。
次の瞬間、静まり返った部屋の中で、愛しい人の声が優しく響いた。
「大学を卒業したら、俺と結婚して」
……え?
驚きのあまり呆然としているあたしを、慧くんはギュッと抱きしめた。
そして、返事をする間もないほど口付けを繰り返される。
……もしかして、不安そうにしてた理由は、それをあたしに伝えたかったから……?
……嘘……。
今ようやくその真実を知り、目の縁がジワリと熱くなった。
なにそれ。ズルすぎるよ……。
不器用な彼なりの精いっぱいの言葉に、思わず涙しそうになる。
……ちゃんと、あとであたしの返事も聞いてね。
心の中でそうつぶやきながら、愛おしくてたまらない隠れオオカミな彼の背中を抱きしめた。


