「あんたが棗のところへ連れて行ってくれたとき、石原の自転車でひとりで帰っていく後ろ姿見て、すげー喪失感があったんだよね」



「…………」



「あんたを失くしたくないって思った」



そっと、抱き寄せられる身体。



有馬くんが、離さないとでも言うようにあたしの体に腕を回す。


その甘い拘束に、あたしは身を委ねた。




「あたしも……棗先輩のところに行ってほしくなかった……」



「なにそれ。自分で連れてったくせに」



「うん。いっぱい我慢した……」



「もう我慢しなくていいよ。俺のこと、もっと欲しがって」



有馬くんがあたしを甘やかすから、なんだか不思議な気分になる。



有馬くんを離したくない、あたしだけのものにしたい……なんて。


あたしは初めて、そんなワガママなことを考えてしまったかもしれない。



「好き……」



抑えきれない想いを口にすると、有馬くんはふっと笑って、抱きしめる腕に力を込めた。



「俺も好き」




それを合図に、あたしも有馬くんの体を強く抱きしめ返したんだ。