「早く行って」



トンっと背中を押す。


後押しの糧となってくれたらと、願いを込めて。


拍子に有馬くんは、一歩前に出た。




「後悔しないで……」



搾り出すようなあたしの声に、有馬くんはゆっくり振り返り、揺らめいていた瞳はスッと細くなった。


まるで、覚悟を決めたとでもいうように。




「ありがとう。あんたがいてくれてよかった」




そう言って、有馬くんはそのまま前へと歩き出してしまう。



……行かないで。


喉から出かかった言葉を、必死に飲み込む。



ダメ。引き止めるのは、あたしの役目じゃない。



振り返らない有馬くんの、小さくなっていく背中を見つめながら、あたしもゆっくりと振り返り、再び石原くんの自転車にまたがった。



後ろ髪に引かれる思いを残しながらも、あたしは有馬くんとの楽しい時間を辿るように、来た道を引き返した。