「美月ちゃん」



急に名前を呼ばれ、ハッとする。



顔を上げれば、棗先輩はおだやかな笑みであたしを見つめて、おもむろに頭を下げた。



「慧のこと、よろしくお願いします」



「……せ、先輩……?」



「あの子、いつも1人で協調性とかないけど、根はとてもいい子なの。だから……」



そんなの……。


そんなこと……もう、ずっと前から……。



「……知ってます」



そう言うと、棗先輩はようやく顔を上げてくれた。



「よかった。今日、美月ちゃんと話せて……本当によかった」



心から、そう思ってくれてるんだろうな。


有馬くん想いの、とても優しい人。



有馬くんが棗先輩を好きになった理由が、わかった気がした。



まだ少し、胸は痛むけれど……大丈夫。



あたしは笑って、棗先輩にお礼を伝えて美術室をあとにした。




「ごめん美月ちゃん。ちょっとだけ、嘘ついちゃった……」



棗先輩の言葉を聞けないまま。