「そうなの。だけどこれを慧に言えば、絶対に慧は私を止めると思った。案の定、そうだったの。お前には無理だって言い切られちゃった……」



自嘲するように笑う先輩は、どことなく悲しそうだった。


……あたしは知ってる。その時の様子を、ひっそりと見てたから。



「だから、慧を見返すためにも、慧の中の私という枠を壊すためにも、私は慧から離れて、自分がしたいようにしようって思った」



先輩は、とあるキャンバスの前に立ち、掛けられたカバーを取って、その絵を見つめた。


それは……以前あたしが魅入ってしまった、『慧星』という題名の絵だった。



「それ……棗先輩が描かれたんですか?」


「うん、そう。これを最後の展覧会に出そうと思ってるの」