助手席で自分の手を眺めながら苦い顔をする美海を心配して、
マナと浅見は必死にくだらない話をし続けた。
「ありがとう。マナ、浅見。でも大丈夫だからね。何もなかった訳じゃないけど何もなかったと思いたいの。だから今は気にしないで」
「浅見とマナが心配するのも分かるんだったら今度ちゃんとうちらに話して」
「そう言う果南が一番心配してるでしょ?」
「うるさい!冗談言う元気があるなら千歳の家までちゃんと案内しろ!」
浅見とマナが後部座席で笑っていた。
美海の顔からも笑みがこぼれる。
車の外で流れる
電灯の光が
時間は流れているんだよ、
と教えてくれている。
さっき、
今さっき
信吾が初めて美海に対して
暴力を振ろうとしたのは
嘘ではない。
時間が経つにつれ、
あれは悪い夢だったとさえ思える。
美海を大事にしている信吾が
美海を殴ろうとした。
あれは紛れもない
真実だった。
美海はまだ
あの一瞬が目に焼き付いて離れない。


