震えた声でやっと言葉を発した美海の目は完全に信吾に怯えている目だった。
「大丈夫だから。もう平気だから。だから、」
信吾の手を払い、
美海は1歩信吾から離れた。
「だから、ちょっと今は触らないで」
美海の言葉に
信吾は自分の前髪を強く掴んだ。
「ごめん、本当にごめん。こんなつもりじゃ、」
「信ちゃん。あたし帰ってもいいかな?」
信吾が手当をしてくれた
ガーゼを被せ、包帯の巻かれた手で自分の目を隠しながら小さな声で言った。
その声は今にも消えてなくなりそうな声だった。
鞄を持ち、
階段を降りて
切っていた携帯の電源を入れた。
「もしもし?」
「もしもし?どうした?」
「今から行ってもいいかな?」
「え?大丈夫なの?」
玄関のドアが閉まり、
美海はゆっくりと信吾の家を後にした。


