夜空のてっぺんに月が上がる。
その月を見ながら、窓際にある赤い箱を手にした。
箱を手に取ると、枕元で携帯が震えた。
ディスプレイの表示を見て、重い溜め息を付く。
「何?」
電話の向こうで泣きじゃくる声と鼻をすする音がする。
「今日は何?」
毎日同じ電話が掛かってくる。
綾が退院してから毎日同じ電話。
夜中になると泣きながら必ず電話が掛かってくる。
退院するとき、優しい千歳は綾を病院まで迎えに行った。
綾を先に病室からだし、千歳だけ医者に引き留められた。
「ノイローゼ気味だと思います。精神科に連れて行ってきちんと検査した方がいいと思いますよ」
その言葉が未だに頭から離れない。
綾がノイローゼ?
こっちがノイローゼになりそうだ、そう頭の中で叫んでしまった。
精神的な苦痛で歪む顔が電話だと見えないから、気が楽だ。
この顔を綾が見たら、
泣き出すに違いないんだ。


