窓から顔を出す美海を見付けて、車の窓を開けた。
手招きをすると、すぐに窓が閉まり、ピンク色のカーテンで部屋が遮断された。
電気が消えるのを見て、車のシートをゆっくり倒した。
頭の後ろで手を組み車の天井を見上げた。
助手席の窓が2回叩かれ、顔を左側に向けると、美海の姿が目に入る。
ドアのロックを解除し、扉が開く前に深呼吸をした。
頭の中で、
今日は殴らない、
と何度も呟いた。
申し訳なさそうに助手席にゆっくり腰を下ろす。
美海は体を小さくし、肩をすくめた。
「ごめんなさい」
小さな声が車内に漏れる。
人々が寝静まった閑静な住宅街はどんな小さな声もよく聞こえる。
信吾はただ縦に首を振り、顔を右側に向けた。
「し、信ちゃん?」
「暑くない?」
熱帯夜とまではいかないが、今日はやけに暑い。
美海が首を横に振るのを、窓ガラス越しに確認した。
暑いのも、寒いのも美海は嫌いだ。
季節の変わり目は必ず風邪をひき、気温差が激しい場所に行くと偏頭痛を起こす。
信吾はそのことをよく知っていた。


