店頭に並ぶ試食コーナーでつまみ食いをしながら歩く。
無邪気に軽井沢を満喫する信吾の一歩後ろを歩き、
美海はひたすら黙ってただ歩くだけだった。
これ、おいしいよ。
と試食品を差し出す信吾に答えず
ただ一歩後ろで黙って信吾を見ていた。
「もう、そんな顔しないでよ。じゃ、あそこに座って」
人差し指の方角にはベンチがあり、
そのまま黙って腰を下ろした。
黒の携帯を取り出し、
信吾は電話帳の『ア行』で指を止めた。
「もしもし?うん、代わるね」
何も言わずに携帯を差し出され、
美海はその携帯をゆっくり受け取った。
「も、もしもし?」
周りにいる人にも聞こえるのではないか、と思うくらいの大声が携帯から漏れた。
「美海!?美海だよね?良かった!もう声が聞けただけで良かった!」
懐かしく感じてしまう浅見の声が響く。
声を聞いただけで涙を流し、
何も言えずに浅見の話に耳を傾けた。
「大丈夫?ちゃんとご飯食べてる?帰ってくる時は連絡して」
声を出さずに首を縦に振る。
でも電話越しの浅見にはまったく届いていない行動だ。
「何かされてない?」
突然小さい声でそっと話しをして来たので、消えそうな声で大丈夫、と告げた。
黒い携帯が耳から離れ、
そのまま信吾の耳へと運ばれる。
「帰るときは連絡させる、あと美海携帯壊れちゃったからさ。新しい連絡先今度送るよ」
美海は心の中で
壊れてない!
と叫んだが、自分の中で押さえ込む。


