「ん?」


「あひるの空、全巻」


無言になった。市ノ瀬の好きな漫画が手元から、なくなってしまうことを想像したに違いない。


「よし。じゃあ隼人は……」


「俺が負けたら仲直りしてあげるよ」


「よし、わかった……って、なんか違くねーか?俺だけなんか損すんじゃねーかよ?」


『だって、本当は仲直りしたいだけでしょ』


言おうと思ったけど、やめた。


「それ呑めないなら無理だね」


軽く言って、教室へ向かおうとすると、後ろから「るせー!わかったよ!呑めばいいんだろ、呑めば!俺はお前に勝つからな!」と、吠えた。


まったく市ノ瀬は呆れるくらい、人がいい。