「遅いと思ってないよ。ていうか、市ノ瀬がそう思ってるだけでしょ?あと俺、長距離だし負ける気はしないよ」


「はっ。まあそうは言っても部活休んでいたからな。そんなお前に負ける気はしねーぞ」


「勝負って、なんか賭けるの?」


「賭け?」


きょとんとする。そんなことは思ってもいなかったみたいだ。だから、試したくて言ったんだ。


「市ノ瀬の大事なものでも賭けてよ」


「はあっ?お前、羽麗ちゃんは、やらねーぞ!まじで賭けたくねーぞ!」と、俺の衿元を持つと、前後に揺すった。その反応が想像通りすぎて、笑いたくなり、同時に安心した。


市ノ瀬のいちばん大事なものが、高塚だってことに。


自分と同じように思っているヤツと付き合っているのなら、文句は本当にないな。


「ああ。そっか負けるもんね。賭けてられないよね」と、わざとらしく挑発してみる。


「だから負けねーって言ってるだろ」


「言ってること矛盾してるけど。まあ、あれでいいよ」