教えてほしくて訊いたのに、


「教えない」


と、優しく言われた。


意地悪なんだから。市ノ瀬くんが、隼人は秘密主義と言ったことを思い出して、本当だなーと実感して笑えた。


「市ノ瀬くんに訊くからいいもん」


「そうして。高塚もマラソン、頑張ってね」


「後ろから数えた方が早いのに」とすねると、笑われた。













昇降口に出ると、目があった女の子がいた。


あの子だ。市ノ瀬くんの元カノの芽衣って子。取り巻きみたいな子達も周りにいなくてひとりだったから彼女も気まずそうに目をそらした。


「あ……あの」と、思わず声をかけた。眉をひそめ迷惑そうな顔を向けた。


「少し話していいかな?」


「何?」と睨まれる。


「わたし、また市ノ瀬くんと付き合ったから」


「知ってるけど。わざわざ自慢でもしにきたわけ?」


「ううん。嫌だって言いたかっただけ。付き合ったからって、文句を言われたり、水をかけられたり、体操着切られたりするのはもう嫌だから。言っておきたかったの」


「……」


少し先にいた杏奈が、「何してんのー?置いて行くよー!」と、わたしを呼んだ。ちょっと怪訝そうに見てたから、また、からまれてると心配してくれたのかもしれない。