男子と会話はできません


トイレを出ると壁にもたれながら、他の学校の生徒が数人、話をしているのが目に入った。


右手のコートに繋がる扉の前にも西高の生徒は見当たらなかった。


どこにいるのかな。話、してくれるかな。また不安になる。


「これ持ってってー!」


聞き覚えのある声に心臓が嫌でもドキリと反応する。


左を向くと、タオルを友達に向かって投げている市ノ瀬くんの背中が見えた。


受け取れなくて落とす友達を見て、笑ったのか肩を揺らした。


振り返る。こっちに向かってくる市ノ瀬くんと目が合った。


「あ……」


声かけなきゃ。そう思うのに、声がでない。


市ノ瀬くんは、そっと目を逸らすと手前にある階段を上って行ってしまった。


ダメだ。今、声をかけないと。


「市ノ瀬くん!」


立ち止まる。だけど、聞こえているはずなのに、階段をそのまま上って行った。


やっぱり、このタイミングで声かけるべきじゃなかった。


試合の後なんだし、ひとりになりたかったかもしれない。


それか、わたしとはもう話せないと思っているのかもしれない。