ママは玄関まで来ると、「やっぱりデートでしょ?」と、にやついた。ママには友達と行くとしか言っていない。


「デートじゃないよ」


「じゃあ、誰と行くのよー?絶対デートでしょ!」


「だから友達」


「答えになってない」


詮索攻撃が始まってしまう前にと、ドアノブに手をかけた。


そうだ、ママに言うことがあったんだ。


「ママ」


「ん?白状する気になったか?」


「ママが、わたしのこと、名前で呼ばないの気持ち悪いよ」


「……」


「あと、たぶん変えないから。いってきます」


その一言で伝わったかな。


振り返れなかったから、ママがどんな顔になったかわからないけど、閉まりかけた扉の奥から、「あ、羽麗、気をつけてね!」と、弾む声が聞こえた。