「違う」と、はっきり言ってた。自分でも驚いた。


だって、好きならこんなはっきりしない気持ちじゃないはずだから。それより、市ノ瀬くんの無理している顔をこれ以上、見たくなかったんだ。


笑ったりしてるのに、泣いてるわけじゃないのに、哀しい顔に見えるから。


やっぱり、同じように微笑んだ。


「ありがと。羽麗ちゃんが好きになろうとしてくれたの、わかってた。それだけで嬉しくて、同じくらい不安だった。

本当はさ、待ってても良かったんだ。ちゃんと隼人を忘れるまで。まだ付き合ったばっかだし。

でもさ、両思いって知ったら待つとかそういう問題じゃないし。もう楽になって良いよ。ごめんね。振り回して」


「振り回してない。振り回したのは、わたしだよ。でも、わたし市ノ瀬くんのこと好きだよ。好きだけど……」


「隼人のことは、どう思ってる?」


真っ直ぐな瞳で訊くから、嘘は吐きたくなかった。


「……隼人くんのことは……気には、なってる」


「隼人、羽麗ちゃんのこと、ずっと好きだったって言ってたから」


「……でも」


「俺さ、あいつのことも好きなんだ。だから、幸せにしてあげて。ずっと待ってたはずだから。邪魔して、ごめん」