「今日のこと?」
「ううん」と首を振った。
「どうしたの?」
言えない。そう思うのに。
「昔のことちょっと思い出しちゃって、ごめんね」と、ママのこととは、正直話しにくかった。
でも思い出していたことは、本当だった。男子を追いかけまわしていたあの頃の優しい記憶。今でもときどき思い返しては、わたしを強い気持ちに掻き立てる。
「昔のこと?」
「きっと隼人くんは覚えてないだろうけど、わたしにとって、大切な小学校の思い出」
「井上の足?」
「え」と、本当に驚いた。
「俺が高塚のことで、いちばん記憶にあることって、それだから」
「……」
「泣くの耐えてた姿とか。なんでだろ。たまに思い出すよ。強がってたけど、きっと涙だけじゃなくて、色んなことに耐えていたのかな、とか、考えるときがある」
隼人くんは、わたしと同じ思い出の中にいて、似たような視点で見ていたのかな。そう思ってしまうと、わたしの心を守っていた防衛壁みたいなものがボロボロと剥がれ落ちていくのがわかった。
ダメだ。言いたい。話を聞いてもらいたい。
誰か、じゃなくて、隼人くんに言いたいんだ。



