彩子に何も言えなかった。


怒ることもできなかったし、責めることもできなかった。


確かに彩子は言った。


わたしに、隼人くんのことで伝えることがある度、ちゃんと江野と話しなよって。


あれは、嘘を吐いたあとの彩子なりの罪悪感を消す為の行為だったのかもしれない。


気づかなかったな。


『江野は別れてから、ずっと高塚のこと好きだったはずだよ』


もしも、あのとき、わたしが隼人くんと向き合えていたら、もう一度よりを戻して付き合ってたりしたのかな。


今、隣にいたのは隼人くんだったりするのかな。


そう考えると、どうしてだろう苦しくなる


もしも。


そんなのもう、関係ないというのに。


そう思うのに、隼人くんに抱きしめられたときのことを思い出すと、気持ちが熱くなる感覚に襲われて、嫌になる。


自分の気持ちが掴めてないって受け入れると、こんなに不安になるものなんだ。