文化祭当日。バス停に並ぶと、隼人くんがいた。


今日は一緒の時間なんだ。声をかけようと思ったのに、言えない。


だって昨日は本当にびっくりしたから。


わたしが杏奈にお願いしていたこと、隼人くんは気付いていたんだ。気持ち悪いと思われたに違いないはずだったのに、嬉しかったって言われた。


どうして、嬉しかったんだろう。


杏奈には『元カノがね、こそこそと陰で身の回りの世話したいなんて知ったら気持ち悪いと思われるにきまってるよ』と言い切られるくらいだったから、そういうものだと思っていたのに。


どうして……。


そう考えちゃうのは、あの腕のせいだ。


転んで抱きとめてくれた。あの腕は、どうしてわたしを抱きしめたんだろう。すぐ離してくれなかったんだろう。


深い意味はないと考えるけど、人を抱きしめたくなるようなことって、どういうときなんだろうって思うと、意味なんてないよね、と軽く言えない。


だってあんな風に身体が触れ合うようなこと、出来ないよ。


ううん。意味なんてない。気のせいだ。


ダメだ、わたしと、頭をこつんと棒の手すりにぶつけた。


こんなことで動揺するなんて、彼女、失格だ。