「お願いします」と市ノ瀬くんに伝えた帰り道。


いつものように自転車を押す市ノ瀬くんの隣を歩いていた。


付き合うってなって、その言葉ひとつで何かが大きく変わるわけじゃないと思っていたけど、


何か考えているような横顔を見て、本当に付き合ったんだなぁと考えただけで気恥ずかしいのはどうしてだろう。


しばらく無言で歩いて


「わ。もうバス停が目の前にある」


と、市ノ瀬くんが驚くものだから、よほど、ぼんやりしていたんだろうな。


丁度良くバスが来た。


「じゃあ」


「うっ、うん。じゃあ」


別れの挨拶を、たぶん互いに恥ずかしいのか目を合わせずに伝える。


「……」


「……」


バスのステップを上ると、市ノ瀬くんが


「大事にするから」


と、言った。ドアが閉まり、上手く手も振れなかった。