「汗、かいてる」と、俺を見上げて言った。


「ごめん、急に。家に帰ってたんだけど、引き返してきて」


「あ。そうだったんだ。どうしたの?」


笑って言うけど、本当はどんな気持ちなんだろう。自分のせいでと思うと胸が痛んだ。気を遣わせてるなら尚更だ。


「聞いたよ」


「えっ?」


「校舎の裏で、俺の元カノに……」


言いかけると、「あっ」と言って、言葉を塞いだ。


「心配してくれたんだ。ありがとう。それなら大丈夫だから、気にしないでね」と。鞄を慌てて手にした。


この話を終わりにして帰ろうとしているのがわかった。


だから、その手に触れて、止めた。


「いや。俺が大丈夫じゃないから」


羽麗ちゃんが怯えたような顔で俺を見た。