「おはよう。杏奈」



「おはよう」


四月。


高校二年生に無事進級したわたしは、運良く親友の石川杏奈(イシカワアンナ)と同じクラスになった。


ちょっと人見知りをするわたしにとっては、このうえなくラッキーな話。


だけど、ラッキーの裏側にはもうひとつ大きなアンラッキーが隠れている。


「いや今回はクラス離してほしかったわ」


机に鞄をかけると、わたしの後ろの席に座る杏奈。


「えっ?嘘。意地悪」


そう言いながらも、わたしは胸のドキドキを抑えられなくて、いつ来るんだろういつ来るんだろうと、その人が来るのを待っていた。


「隼人、おはよう」


黒板に背を向けて座るわたしの後方、胸を高鳴らせる相手の名前が呼ばれた。


後ろ、振り向けない。


「はよ」


この声。