「なんでそう思うの?高塚が思うより、高塚のこと好きな奴っていると思うけど」


そう言われてもそんな風に思えなくて、


「どっちにしろ、好きな人出来ないからね」


と、返事を濁した。


「好きな人としか付き合えない?」


「うん。それはね」と、はっきり言った。隼人くんと付き合ったのも、そういう気持ちだったんだよと昔の自分を肯定してるみたいだと自分で言いながら思った。


教室に近づく、すっかり隼人くんを頼りにしてしまったけど、もう大丈夫と伝えなければダメだ。


「今日は一緒に行ってくれてありがとう。わたしひとりだったら、バスさえ乗れなかったかもしれない」


「いいよ。そういうお礼」


「もう平気だから」


「はよ」と後ろから杏奈の声がした。


「おはよう」


それに気づいて、挨拶をすると隼人くんは少し先を歩いて行った。


いつも通りに切り替わると、やっぱり昨日のことは嘘だったんじゃないのかな、なんて風に見えた日常だった。


誰にも言わない。杏奈にも言わない。そう決めた。なかったことにしたかった。