「うん。なんでも聞いて。自分の中で終わらせないでさ。羽麗ちゃんがなんで男子と話さなくなったかは知らないけど、俺のことは信じてほしいから」


嘘のないような顔に見えた。そういえば市ノ瀬くんは、いつもこんな目をしてる。


わたしは、こんな風に人を真っ直ぐ見つめるなんて無理だ。


やっぱり今日も頷きながら逸らしてしまう。どんな風に映っているんだろうと想像すると、本当に情けない自分の顔しか浮かばないから。


「市ノ瀬さぼりー?」と声がした。


どうやら下にバスケ部の友達がいたみたい。二階だから、外からは良く見えていた。


市ノ瀬くんは「あと行くー!」と、返事をした。


「あ……ごめんね。変なタイミングで」


「ううん。でもそろそろ行かないと。あいつにチクられるかなー」と、市ノ瀬くんは立ち上がった。


「うん。あっ……あの」


「ん?」


「あの、の、ね。今度、話す、から。面白くないけど。聞いてくれるかな?」


「うん。もちろん」


少しずつだけど、心が揺れてるのが自分でもわかった。


恋をするのは、簡単なことだって気付くのはいつも落ちた後のことだと杏奈がいつだったか、言ったことを思い出した。