スキー研修の日の朝。
俺は結局、あれから眠ることができなかった。


「…ふたりともおはよ。ついに今日が来ちゃったね。」
梨華も眠れていないのか、少し顔色が悪い。

「ああ、なにがあるかわからない。もしかしたらなにも起こらないかもしれない。でも、起こってからじゃ遅いんだ。」

「…そうだな。」


俺たちはそれぞれの思いを胸に、バスへ乗り込んだ。


バスでは未羽は音楽を聞いて、1人で座っていた。


スキー場へ着く。
午前中は全体で説明を受け、午後から自由行動だ。

「未羽ちゃんに気づかれないように、未羽をそっと追いかけよう。」

「ああ、少しでも変化があったらお互いに言いあおうな。」


そうして俺たちはずっと未羽を見ていた。
自由行動の時間は2時間。
そのあとは点呼があるから、なにかあるとしたらこの時間だ。


俺は不自然じゃないように、未羽をそっと監視した。

しかし1時間経っても未羽はずっとベンチに座って、動こうとしない。

そこからまた10分、20分、30分…。
未羽は一向に動かずに、一点をじっと見ている。


…俺の思い過ごしだったのか?
なにもないのか?
なにも起こらない方がいいのだが、未羽の態度が気になる。
表情は硬く、緊張しているようだ。


「おーい、もうすぐ点呼10分前だってよー!」

クラスメイトの声を聞いて、ぞろぞろと少しの生徒が動き出す。

未羽はスッと立ち上がってみんなの方へ行く。

ホッとして俺も点呼場所へ向かおうとする。

しかし、
「おい!!!天!!梨華がどこにもいねぇ!電話にも出ねぇ!!」
駿が走って俺に伝える。

「なんだって!?」
梨華が!?
俺はキョロキョロと辺りを見回すがどこにもいない。
点呼場所にもいないようだ。

「どこかに滑り落ちたかもしれない!!急いで探そう!まだ点呼まで少し時間がある!」
駿がそういって走り出す。

俺も急いで追いかけた。
未羽は点呼場所に向かったから大丈夫だと信じて。