「ううん、やっぱり聞く!日野くんのこと知りたいから……」


ようやく積み重ねた日々が報われるんだ。この機会を逃すわけにはいかない。


「じゃあ、そこの椅子にでも座ろう」


日野くんの細くて長い指先の向こうには、少し古びたベンチがある。

プールサイドの中にこんなベンチあったんだ。

休憩場所とかに使うのかな。屋根もあるし、ようやくひと息つけそう。


ペタペタと素足のままベンチまで歩けば、後ろにはわたしの足跡が残る。

はは、なんか情けないな。

自分勝手にプールに飛び込んだくせに、結局日野くんも巻き込んで迷惑を掛けて。

元ら日野くんのせいでもあるんだけど、心配を掛けたかったわけじゃないから。


「何から……話せばいいんだろうな……」


胸がぐっと苦しくなるような、そんな寂しい声だった。


小さなベンチに並んで座るわたしと日野くんの距離はかなり近い。

少し体を横に傾ければすぐにぶつかってしまいそう。


「何からって……全部だよ」


ポタポタと髪の毛から零れ落ちる水滴を見ながら、そう返した。