「会いに来た」

「わ、わたしに……?」

「うん。そう」


どういう意味?

そう言いかけて、喋るのをやめた。


喪失中の記憶を忘れたはずの碧人くんが、なぜかわたしを知っている。

あの様子からすると、たぶん誰かに聞いたんだと思う。

けれど、どこまで知っているのかわからない以上、わたしからは何も言えない。


2度と思い出さなくても心は変わるものだから。思い出せない記憶に苦しむ碧人くんを、もう見たくない。


「瑠璃に聞いたよ。俺、2度も記憶を失ったんだってな」


っ……。

碧人くんの言葉を聞いて、心臓が深く波を打った。

なんで、北上さんがそんなことを………。


元の生活に戻りやすいよう、喪失中の出来事はなかった事にしようと言われていた。

このまま何も言わずにいれば、全てが上手くいくはずだったのに。

それなのに、どうして。

碧人くんが傷ついてもよかったの?