「何もすることないな……」

誰もいない部屋の片隅で、ぽつりと声を漏らした。

見慣れない部屋はなんだか居心地が悪くて、心が休まる気がしない。


あれから数日、ようやく退院することができた俺は部屋で暇を持て余していた。

まさか自分が2度も記憶を失うとは思っていなかったし、忘れてしまうと本当に思い出すのが難しいのだと知った。

母さんや父さん。そして瑠璃にも迷惑を掛けてしまったのだと、今更胸が痛くなる。

仕方ないだろ?ついこの間まで知らなかったんだから。


俺にとって、交通事故に遭った日が最後の記憶。

瑠璃を守れたかもわからず意識を手放したあの瞬間が、とても怖かった。

俺の命よりも瑠璃のことが大切だったから。

それなのに……形的に助けることはできても、結局俺は瑠璃を傷つけた。


「ごめん」のひと言じゃ足りないくらい。深く、強く、瑠璃の気持ちを踏みにじったんだ。