「碧人くん、元気かな……」

最後に碧人くんの姿を見たのは、記憶を取り戻したあの日。

わたしを見る冷たい瞳を今でもよく覚えている。

北上さんと恋人同士に戻れて、お母さんやお父さんともちゃんと話せるようになって。

きっと今頃、呑気に家でテレビでも見てるのかな。


そりゃそうだよ。

碧人くんは記憶を失ったことすら知らないんだもの。


寂しいと思うのはわたしだけ。

碧人くんはもう2度と、わたしの名前を呼んではくれないのだから。


「このノート、もう必要ないんだね」


くだらない作戦ばかり考えて碧人くんを困らせた日々が、随分昔のように感じる。


屋上で碧人くんを待ち伏せて、驚かせようとしたこともあった。

頭が痛くなるほど何度も深呼吸をさせたり、事故と同じ状況を作ろうとしたり。


あの頃はくだらない作戦でも、本気で碧人くんの記憶が戻ると信じていた。