「碧人が喪失中の記憶を失くしたことで……その………今後の生活に何か影響は出るんですか……?」
「いえ、その点については特に問題はないと思います。
碧人くんが忘れてしまった記憶はほんの数ヶ月の出来事なので、
それほど脳に負担は掛かっていないでしょう」
「そうなんですね……」
ほっと安堵の息を漏らす碧人くんのお母さんが妙に憎くらしく見えた。
なんで納得してるの?
なんで「よかった」って気分で落ち着いていられるの?
碧人くんはまた記憶を失くしちゃったんだよ?
ねぇ、どうしてなの…………。
そう言いたくなる気持ちを胸の奥に仕舞い込んで、震える唇で細く息を吐いた。
「あのっ、碧人が昔の記憶を取り戻したように、忘れていた間の記憶を取り戻すことはできるんでしょうか………!」
隣に座っていた北上さんが不安そうな表情で先生を見た。
けれど、そんな北上さんを見ても尚、落ち着いた声色で先生は言う。
「………残念ながら、喪失中の記憶を取り戻すことは不可能に近いと考えられます」
っ………。
そ、んな……。
一瞬で光のある世界が遠ざかり、目の前が真っ暗になった。