碧人くん。

わたし、あの言葉信じてるよ。


夏休み、共に向かった島で教えてくれた碧人くんの気持ち。


『たとえすべて思い出したとしても俺は今ある生活を捨てたりしない。過去も大切だけど、それは“今”も同じだから』


記憶が戻ってもわたしたちは一緒にいられるんだって。


好きな人と離れるのは嫌だよ。


「碧人くん……!」


震える口元で強引に声をあげた。


世界が変わる。わたしとキミの。


「……お、お前は…………」


狂った時計が回り出したら、もう誰にも止めることはできないの。


床に崩れていく碧人くんの姿を立ち尽くしたまま見ていた。

全てがスローモーションに見えて、悲鳴があがる店内の騒がしい音も不思議とうるさいとは思えなかった。



まさかこの後、

絶望的な事実を告げられることになるとは、わたしはまだ知らない。


目が覚めたら「芽衣子」ってわたしの名前を呼んでくれるんだって。


信じていたかった。