「そうだね。そろそろ帰らなきゃ」


「あはは」と微妙な笑いで誤魔化しながら立ち上がると、


「あ?何言ってんだよ」


ガシッと突然碧人くんに腕を掴まれた。


「へ……?」


なんで……わたしの腕掴むの………?


なんでなんで?と考えるのもつかの間、頭にハテナマークを浮かべるわたしを見下ろして、碧人くんがニヤリと笑った。


「最後にちょっと付き合えよ。

走るぞ!」


「走っ………っ、ちょっ……!?」


わたしの言葉には一切耳を傾けず、強引に腕を引いたまま碧人くんは勢いよく地面を蹴り上げた。



退場口に進む人たちとは反対方向に向かって走るわたしと碧人くん。

抵抗もできず、ただ目の前を走る碧人くんの背中を見つめることしかできない。


なんだろう……。

これってなんだか借り物競走のときの再現をしているみたい。


「ふふっ……」


ついあの日を思い出して笑ってしまう。


懐かしい風が頬を掠めて、ほんの少しだけ心地が良かった。