「本当はね碧人の彼女だったって、言うつもりなかったの」
「どうして……ですか?」
「今の碧人に昔の記憶は必要ないって思ってたから」
震える声を押し殺して、わたしと目も合わせようとしないその姿はとても儚く痛々しい。
見ているだけのわたしまで胸がチクリと苦しくなってきた。
「あのっ、よかったら北上さんと碧人くんのこと聞かせてくれませんか……?」
ここまで来たんだもの。
碧人くんの代わりにわたしが聞くんだ。
「……………碧人が記憶喪失になったのは、わたしせいなんだ」
えっ………?
言葉を繋げるように、北上さんはゆっくりと語り出した。
中学3年生の冬に碧人くんと付き合い始めたこと。
1年記念の日に碧人くんが自分を庇って事故に遭ったこと。
何も言わず、碧人くんがこの島を出て行ったこと。
どの話も涙が出そうなほど悲しいものばかりで、何も言葉が出てこなかった。



