「いえいえ、そこに立っている人も懐かれて喜んでましたよ!」

「別に喜んでないだろ」


わたしの言葉を聞いて、すぐさま否定的にジトッとした瞳でこちらを見てくる。


そんな変な顔したって事実は事実なのに。

そう言ったら怒るかな。


「碧人?」


「はい、碧人くんが……………って、え?」


今、「碧人」って言った?

わたし………碧人くんの名前なんてひと言も言ってないのに……。


「……っ……うそ……」


さっきまで穏やかに微笑んでいた彼女の瞳には、いつの間にか涙が溢れている。


たった1つの出来事が呼び寄せた胸騒ぎがする出会い。

思わず息を飲んだ。


これは偶然?

それとも………必然……?


薄気味悪い風が肌を撫でるたびに、凍えるような冷たい感触がする。

風に吹かれるがまま、彼女の右耳にキラリと光る青色のピアスが見えた。


どこか見覚えがあったのは、たぶん。


気のせいなんかじゃないと思う。