ヘラヘラと力のない笑顔で誤魔化してみたが、たぶん碧人くんは気づいたんだろう。

赤く染まった頬を手で隠しながら「早く慣れろよ、バカ……」と弱々しく呟いた。


平気そうな顔で名前を呼んでくれたのに、碧人くんもわたしと変わらない。

恥ずかしいのも一緒だ。


「えっと……碧人くん何言おうとしてたの?」

「あぁ、そうだったな」


名前を呼ばれて照れている場合じゃない。

あくまで碧人くんの記憶を取り戻すことに集中しなければ。


「行ってみたいとこがあるんだけど」

「行ってみたい……ところ………?」


「ほら、あそこ」


碧人くんの指が示した場所は、長い階段の先にある展望台。

あそこからなら、たぶん島中を見渡せるだろう。


「何か思い入れでもあるの……?」


過去の記憶がない碧人くんに行きたい場所があるなんて、思ってもいなかった。


記憶がないなら思い出の場所も、行ってみたい所も、わかるはずがないのだから。