もしも勇気が出たら君を抱きしめたい



「・・・先輩はそんなこと言うてくれん」


そう呟くと、伊東は腰をあげた。


「せんせー」

「どうした?」


「今、めっちゃ泣きそうやから、トイレいってくる」


そういったのに、涙が目にいっぱい溜まっているのに、伊東は歩き出そうとしない。


「・・・ここで泣いてもいいよ、誰にも言わんし、もし僕がおんのが嫌なら九条でも呼んでくるし」


「九条は呼ばんといて!あいつ先輩と仲良いから言いつけるもん!」


そういった伊東はいつもより幼く見えた。


「・・んじゃ僕はおらんことにしよう。ここで泣くだけ泣き。その顔で外あるけんやろ?」



伊東の目をじっと見つめる。


僕が学生だったら、僕が先生じゃなかったら、間違いなく抱きしめたのに。