クラシック




は、とか、あ、とか小さく漏れる息に俺だけが突き動かされる。
歯列をなぞり舌先を伸ばした場所に触れた温かなそれは、ピクリと反応し喉奥へと逃げていった。
引き寄せた美音の後頭部からも華奢な身体からも。
強張りしか伝わってこないのが、終いには笑える。



…やめやめ。
こんなガチガチになってるヤツと、それでもベロチューなんつー偉業を成し遂げるスキルなんざ。
さすがに俺は持ち合わせてない。
それともエロスの香りがする性少年の教科書には載ってたのか?



それでも名残惜しくて柔らかな下唇を食む。
目を見開いたままの美音のおでこに、俺はコツンと自分のを当てた。



「…おい。目ぇ渇くぞ」

「………」

「…おい、この距離で俺をぼっちにすんな」



みーおー、と耳元へ強めの声を張り上げると壊れかけの人形みたくぎこちなく動き出した。
お前、ギギギ、とか。
擬態語くっつきそうだぞ。



「…あ、いざ」「奏成くん」

「…奏成、くん…」

「お前ね、ちょっと気ぃ抜いたら相澤くんに逆行ってどういうこと?
無意識デフォルトで奏成くん、練習しとけよ」



放熱が上手くいかない。
照れは血液に乗って身体中を駆け巡り、カッコ悪いことばっかり俺に口走らせる。



「…何の話、してたんだか…。
忘れちゃったよ…」

「…偶然だな。俺も忘れた」



ぴったりくっついたおでこを支点に、美音の身体からは少しずつ力が抜けていく。
そうしてほんの少し、俺の方へしなだれかかってくるんだけど。
…お前、これ。無意識デスカ?



「……したこと、ある?」

「えらくぶっ飛ぶな、美音の話。
俺様だから理解してやれんだぞ」



どれだけだと呆れられそうなくらい上からの物言いに、だけど美音はふ、と笑いを零す。
デコくっつけてたんじゃ見えねーな。
俺は美音のやわやわ頬っぺたを包むと、俺の目の前へ小さな顔を据え置いた。



「ねえよ。
誰ともつき合ったことねえっつってんだろ、何度も。
信じてねえの?そういうの」



そういうんじゃなくて。

ふるふるとかぶりを振りながら美音は何を思ったのか、一旦白くなりかけていた頬をまた真っ赤に染め上げた。



「…そうか。美音。分かったぞ」

「ええっ?!わ、分かったの?!」

「そうかそうか、美音お得意の妄想の中じゃ、俺とのベロチューはあり得んかったワケね?」



どうして、とまた瞠目し固まるあたり、俺の読みは的中だったらしい。
…何なんだこれ。何なんだこの可愛いすぎる生き物。



「なんだろなあ、男子はできるんだよなあ、来るべき時には発動するような特殊コマンドが仕込まれてんだよなあ、生まれつき」



何それ、とクツクツ笑う美音の大きな瞳はゆるりと細められ、つられて俺もいろんなネジが緩みそうだと思考が変態じみていく。
キリリ、と。
顔、戻ってるか?
俺、今から超カッコいいこと言おうと思ってんのに。



「…でも、そういうの。
そういう全部、したいと思うの。
美音にだけだから」



お前が、俺を、変えていくんだ。

…言いながら、ちょっと不安になった。
俺の言いたいこと、ちゃんと伝わったか?