クラシック

片腕に颯ちゃんを抱っこしたまま、馴れ馴れしい陽人の手から美音を奪い返す。
おお!とか湧き上がる低い声は要らねえから!
ちょっと荒っぽかった俺の動きに颯ちゃんはむしろキャッキャと喜んでいる。



「美音もなあ、抵抗しろよ!
奏成くんの傍じゃなきゃ嫌なのくらい言ってみろ!」

「む、無理…」

「無理じゃねえよ!やってみる前から諦めんな !」

「奏ちゃん非道いよ、そんな言い方!」

「優しくない男は嫌われちゃうよ?奏」

「お前らみんなが非道いんだよ!楽しいクリパの邪魔しやがって!」



あちらこちらから投げつけられる声にいちいち応えてたんじゃキリが無い。
俺の予定はこんなんじゃなかったのに。
うちの親戚はこうだ、と。
うるさ型ばっかなんだ、と分かっていても腹が立つ。



「うわあ…ぷくぷく」



眉間にシワが寄り目がつり上がるほど苛立つ俺の気持ちをスルリと撫でていったのは、ちょっとマヌケな美音の声。
見れば颯ちゃんの紅葉饅頭のような手を摘み、そのあまりの触り心地の好さに目を細めている。



いや、気持ちは分かるけど美音。
颯ちゃんはハーフのジャンボベイビーだからな、確かにどこもかしこもぷくぷくだけど。
羨ましすぎるこの感情のぶつけ先が無いじゃんか。



「…え。く、来る、の?」



颯ちゃんはもっと小さい頃からたくさんの人間に囲まれてきたからかあまり人見知りをしない。
美音へも抱っこをせがむようにちっちゃな手を伸ばしている。
離婚した仁 叔父さんが男手一つで育てていて男兄弟ばっか。



…颯ちゃん。
ちっこいなりに分かってんだな。
美音が可愛い、って。



「あら、ま。私達には見向きもしないのに。
颯ちゃんが抱っこせがんでるわ!」

「分かってるんだねえ、鮮度の好さが」

「和くん、お年玉減額」



颯ちゃんの両脇に手を入れて美音へ渡そうとしたけれど、思いのほか美音は及び腰だ。
しっかり抱えないと颯ちゃん、3歳前にして15キロ近くあるからな。



「大丈夫か?イケる?美音」

「…私、親戚とか居なくて。
赤ちゃん…抱っこしてみたいけど、したことない…」



心細そうに呟く美音へ、俺は思わず口元を緩ませながらソファーへ座るよう目で促す。
そこどけ、翔太も陽人も。
誰が乱暴者だ、この。
腰かけた美音の隣を陣取ると、柔らかそうな膝の上へ颯ちゃんをゆっくり座らせた。



…いいな、颯ちゃん。マジで。
俺、そんな愛おしむような笑顔、美音から向けてもらった記憶 無いんだけど!
うわ、ほっぺたとか!髪の毛とか!
ああ、颯ちゃん、どこ触ろうとしてんだ!
純粋無垢な天使の微笑みって、それだけでいろいろ許してもらえんだな!



「ちょっとー、颯ちゃんにジェラシー?奏ちゃん。その姿、萎えるー」

「…うるさい。黙れ、翔太」

「ケーキ切るわよー!美味しいとこは早い者勝ち!」



ケーキ取ってくる、と美音に言い置いてわらわらとテーブルへ集まる連中の輪の中へ身を寄せる。
チラリと目線を送れば、颯ちゃんの腕や頬のぷくぷく加減を満足げに堪能している美音の姿が俺の視界を一杯にした。
俺のオススメポイントは身のムッチリ詰まった太腿だぞ。



「…なんかキモくね?この奏ちゃん」

「中坊には俺の魅力が伝わらねえんだな、冬吾」

「んだよー、オレ、奏ちゃんよか彼女たくさんいるからな!」

「バーカ!数じゃねえんだよ」



ああ、もう。
本当にどいつもこいつもうるさい。
早くここから脱出したい。



それでも。
良かったな、とか。
いい子じゃん、とか。
可愛いな、とか。
それぞれにこっそり小突かれながらこそばゆくなる言葉を貰ったら。
…もうちょっとだけ、ここにいても。
いいかな、と思えた。



美音も颯ちゃん触って嬉しそうだし。
なんか、ヤイヤイ囲まれても楽しそうだし、な。