クラシック

…うん、脱力。
がっくりとうな垂れる、ってこういう図だからな。
せっかくいい雰囲気だったのによ。
空気読めよ、お袋。



「大っきい子から小っちゃい子までみんな待ってるのよー。
“あの”奏成の“初めて”の彼女を見たいって集まって」



さささ、と促すお袋の声が俺の手から美音を奪っていく。
何だ、その。
“あの”と“初めて”の何気ない強調。



「…悪いけど、昼くらいまで一緒にいて?美音。
無理そうなら即ピアノ部屋に行くし。その後、連れ出すから。
何でも言えよ?我慢すんな」



俺の声が耳に入ったのか、お袋は何か言いたげにニヤニヤしている。
…もう、マジで。
放っといてくれんかな。



「…じゃあ。名前で呼ばなくても、いい?」

「お前。
その“じゃあ”の使い方も正しくねえだろ。却下」



恨めし気な表情も可愛いって。
手を添えた小さな背中はすうっと背筋が伸びていて、美音に無理をさせたくないと願う俺はそれだけで何となく救われた気分になった。



お袋へ続き美音を若干隠し気味にリビングへ入る。
途端に集まる幾つもの好奇の視線。
…ああ、ほんとだ。
でっかいのからちっこいのまで。
チャラ男からちびっこ怪獣まで。
男ばっかり各種ご要望に応えるでもなく取り揃えてあるなー。



「…あの、おはよう、ござ―」



俺の後ろから半身覗かせた美音はおずおずと、それでも丁寧に挨拶にチャレンジしようとして、途端に野太い声に遮られた。



「おお!可愛い!マジ可愛い!リアルJKどうしよう!」

「見んな!美音が汚される!」

「奏、怖えーっ!」

「やー、奏には勿体なくね?」

「うるせえ!お似合いだ!」

「かなたーん、だっこー」

「颯ちゃん、また一段と重くなったなー」



従兄弟連中で最年少の颯を抱っこしながら美音を庇うように歩を進める。
広いリビング内に姉貴の姿を捜すけど。
ヒョイと顔だけ覗き入れたキッチンにも見当たらない。
こんなバカ男だらけの中に置いとくより俺と姉貴の傍がまだ気分も解れるかと思ったのに。



「お姉ちゃん、病院から呼び出されて出かけたのよ」



俺の動きの意味を察したのかお袋が何気に教えてくれた。
…そうか。それならもう、美音は俺の隣キープ確定。



「…あ、れ?美音?!」



振り向くとそこに美音のちっこい姿はなく颯ちゃんがいずこかへ向かってあー、と手を差し伸べている。
その桜貝みたいな薄いピンクの爪の先に目を遣ると、翔太に和に陽人という見慣れた連中に引きずられていく困惑気味の美音がいた。



「ちょ、テメ!美音に気安く触んな!陽人!
翔太も和もそのガキ止めろよ!」