クラシック




「こ、子ども…」

「…んだと?」

「子どもの頃によくされた…。
笑窪を指でグリグリしてくる男子、クラスに一人は必ずいた」

「男としての性ってヤツなんだろうな、いや分かるわそれ」

「も、せっかく相澤くん格好良かったのに…。
すっごい説得力あってすっごい納得できてすっごい信じられると思ったのに」

「遠慮すんな、そのまま納得しとけ。
信じろよ?俺のこと」



美音は夜目にもはっきり浮かび上がるほどの綺麗な笑みで首を縦に振った。
良かった。
俺の超いい加減理論に美音が頷いてくれて。
いやもしかしたら、騙されてくれてんのかもしれないけど。
ニヤけそうな頬にク、と力を籠め、俺は美音へと右手を差し伸ばす。



「帰ろう。明日も朝早いからな」

「…?どうして…」

「ウチでクリパだぞ?忘れたのか」

「…そんな朝早くから?」

「明日は分刻みのタイトスケジュールだからな?美音。
後からメールするけど。
デートの時間を長く取らねえと俺は暴れる」

「…何の宣言だろう、それ」



美音がバイトの間、俺がどれだけ妄想逞しくデートプランを練ったと思ってんの?
俺って面倒くさがりじゃなかったかと自分で自分に驚いたぞ。
楽しみ、と隣で微笑む美音以上に俺のが浮かれてるのは間違いなかった。





美音へとメールを作りながら思い出した。
そう言えば今日、あいつ陽人へ何を耳打ちしてたんだろう。
明日の予定にばっか気を取られて、確かに妬いた黒い記憶なんて忘却の彼方だったぞ。何てことだ。
明日は8時に迎えに行くから、というメールの本文にそれから、とつけ足した。



やけに親しげに嬉しそうに陽人の耳元へ唇を近づけていた美音。
不意に蘇ったあのシーンに、その柔らかさは俺だけのもんだと声を荒げたくなる。
…うわ、思い出しただけで吐きそうになった。俺って繊細。



「あ、やば…」



メール、送信してしまった。
それから、の先、書いてないのに。
スマホって時々、変なとこ触ってしまうなとため息を吐きながら、修正メールを送るかこれにかこつけて電話するか迷ったフリをした。



時間が時間だけに、我慢してるけど。
本当はメールより声を聴けた方が良いに決まってる。
もっと言うなら逢いたいし。
つか帰したくなかったし。
…俺はね、男だし。親はわりと好きにさせてくれてるけど。
美音はそうじゃないと思いやれるくらいの自制心は持ってるつもり。



…などとボンヤリしていたらスマホが鳴り出す。
ディスプレイに映し出された名前に慌てて通話のアイコンをタップした。
純情少年の初恋か、って…いやまったくもってその通りだな、うん。