クラシック

胸に囲い込んだ美音のちっこい身体は不思議と温かい。
子どもか。子ども体温か。
突然変えられた目の前の景色の変化についていけず、フゴフゴしている様が可愛い。



「…ずっと、って。
信じて?美音。
身体だけ掴まえたって意味がないんだ」



心まで、全部。

…俺ってこんなキザなセリフ言えんだな。
どこかで自身に感心しながら腕に籠める力を加減する。
気になっていた。
俺の言葉を何気にかわして。
ずっと、を信じようとしない理由は何にある?



「…いなくならない?…私の、前から」

「ならねえよ」



美音の問いかけに応えるには、ほんの僅かの間すら許されない。
真剣さしか感じられない小さな声で、いなくならない?なんて。
どんだけ魔性だ、美音。
お前に不安なんか抱かせない。



「…相澤くんは、人間だもん。
…ピアノじゃない…物、じゃない」

「だな、人間だよ。
だからこうして美音のこと抱きしめられるんだろ」



…あ。心なしか。
美音の子ども体温がさらに上昇した気がする。
カアアッ、とかさ。
効果音 聞こえねえかな。
耳を美音の髪の毛へすり寄せてみる。



「…人間、だから。
心変わり、するでしょう?」

「しねえよ、バカ。
美音以外に興味はねえ」

「…でも。
新しくお父さんになる人よ、って紹介された男の人は、結局…。
それに、不慮の事故とか…お父さんは、そうだったって」

「…美音…」



そうやって、みんないなくなってきたのよ。



お前、どんだけ寂しかったんだろうな。
どんだけ我慢してきたんだろう。
か細い声に身体のあちこちが痛くなる。
信じて、ってどれだけ言えば美音に伝わるんだろう。



「美音。目 閉じて」



…あ、ヤバ。
囲い込んだ俺の腕の中から上目遣い攻撃が熱烈に浴びせられた。
無意識美少女最強だな。
俺は苦笑しながら瞼を閉じるよう掌で美音の目元を覆い隠した。



…どうなるか分からないけど。
屁理屈だと言われるかもしれないけど。



「…相澤くん?何――」

「耳も塞いで。20数えたら俺のこと捜して」

「え?な、ん」

「いいから。魔法」



素直に目を閉じ立ち尽くす美音の両手を掬い耳元へ押し当てた。
闇夜に響く幾つかの音を遮らせると律儀な唇からいーち、にー、と数が囁かれ始める。



俺は出来るだけ音を立てずに美音の右後方へしゃがみこんだ。
そうして気配を消すよう心がける…やり方 分かんねえけど。
でもきっと美音は俺を見失う。
俺の方が背が高いと刷り込まれてる美音の目線は知らず高いところを捜すだろう。
いなくなる、と思い込んでるし。
低い位置への意識は向きにくい。
人間にある死角とか目の盲点は、脳内の情報を元に足りない景色を補っていこうとしたり創りあげたりするんだ。



…なあんて。
こんな理詰めで美音の繊細な心情を揺さぶろうとするなんて。
ガキっぽいな。大人げない。
和だったらどうするんだろう、とか。
いやむしろ本当に子どもの陽人だったらどうするんだろう、とか。
考え込んでしまう自分が嫌になった。