クラシック




「…そう。俺って天才」

「…うん…?」

「俺、パトロンになればいいんじゃん。
美少女ピアニスト相澤美音の」

「?!」

「な?」



パトロンで合ってるよな?
芸術家達の支援者を確かそう言うよな?
メディチ家みたいな、さ。
そう、そうしたら美音はずっとピアノを弾いていられる。
俺の傍で。
まるごと美音が手に入る。



「…わ、私…愛人に、なるの…?」

「わ、ちょっ、止めろ!その淫靡な響き!
やらしーぞ、美音!パトロンの意味を正しく理解し直して来い!」

「あ、私の名字、相川なんだけど…」

「知ってるよ!いくら俺が無関心野郎でも!
察しろよ!結婚すりゃいいじゃん、って話に戻るだろ!
愛人じゃねえよ、嫁だよ!
どこまでド天然なんだ、この小悪魔!」

「…天然じゃないです」

「天然なヤツに限ってそう言うんだよ!
女の自己申告天然は鼻につく計算不思議ちゃんだろ!」

「そうなんだ?」



そうなんだ?って何それ。
ふうーん女の子の生態に詳しいねー相澤くん、とか。
ヤキモチとか、無いワケね、美音。



「博学だね、相澤くん」

「…おうよ。一生ついて来い、迷わねえように」

「あ、でも私、方向音痴ではないので」



…うん。
またちょっと、ズレてんな。
しかも、お前。
こんな暗がりでスカートに埃 付いてるかどうか見えねえだろ。
なのに立ち上がってヒラヒラさせてんじゃねえよ、俺の目の前で。
捲んぞ、コラ。



「明日も…うちで練習な?」

「はい、コンクールまでお世話になります」



バカ美音。
コンクールまで、なワケねえだろ。
一生ずっと離れられなくしてやるからな。
そんな思惑がニヤリ顔に出ないように得意の仮面を被りながら、俺は美音の手を取って歩き出した。





―――翌日。



せっかく、美音と2人きりでゆったりまったり過ごせるかと思ってたのに。
なぜか陽人の襲撃に遭った。
うちの住所、どうやって知ったんだと問いつめるとクリニックの受付お姉さんが笑顔で教えてくれたんだとか。
…親父にリスクマネジメントについてご注進申し上げよう。



陽人は美音と練習したいのだと言い張り、一向に帰ろうとしない。
ことピアノに関しては俺が安易に口出ししてよいものか躊躇われ、結局 美音へどうする?と問うた。
…つっても優しい美音のことだ。
無碍に送り返すはずもなく、ピアノ部屋で陽人の課題曲へつき合っている。



勿論、俺もつき合っておりますとも。
2人だけになんかしてやるかバカ陽人。
一つの長椅子に並んで座りやがって。



「…相澤くん?」

「何?美音」

「退屈じゃない?」



美音が譜面台の横からピョコンと顔を覗かせ、ソファーへ寝そべる俺へ心配そうな声を投げかけてきた。
…その背後には大きく頷いている陽人の顔。
テメ、絶対、美音と真意が違うだろ。



「大丈夫。ヤキモチ妬くのに忙しいから」

「…ヤキモチ?」

「だって陽人と近いじゃん」



目を瞠る様子から察するに近い、って意識は無かったんだろうな。
慌てて立ち上がり別の椅子がないか探してるし。
で、そういう行動はさ。
俺にヤキモチ妬かせたくない、って解釈でいいよな?
プラス、陽人のことも意識してなかった、と。
気づけよ、陽人も。
お前が入り込む隙間は俺達には無い。
…と、思いたい。



「…ごめんね、相澤くん…あの。何か他に」

「これ」



俺はソファーから立ち上がり、肘掛け部分を手前へグイと引いた。
キャスターが付いているそれは、ピアノの傍へ運べるんだよ、実は。



「美音は俺の隣。なんなら膝の上でもいいけど」

「…隣、お邪魔します」



陽人はわざとらしく大きなため息を吐き、美音ちゃん次の曲いくね、と長い指を鍵盤の上へ構えた。