頑張れない、と繰り返す陽人へどこまで話をしたものか。
美音は俺の大切な彼女で、俺の独占欲が口を容易に割らせない、というのも勿論あるけれど。
陽人自身で向き合うべきじゃないのか、と思っていた。
陽人が動き、美音と話して、頑張らないんじゃなく頑張れないという理解の仕方もあると見出せれば。
コイツ、一皮むけんじゃねえの、なんて。
…ああ、俺って天使。
「訊いてみな?美音に直接。
ああ、でも必要以上の接近は禁止。
チューとかありえねえから」
―――そうして。
ピアノ教室を出た帰り道。
美音を右側に陽人を左側に従えて歩き出そうとしたけれど思い直した。
美音が車道側だなんて洒落になんねえだろ。
「美音?こっち側来て…ってお前」
どうした?と覗き込む。
美音の可愛い顔には不可思議現象を受け容れられないといった戸惑いの色が濃くて。
…俺が陽人を家まで送る、って話は、美音も聞いてたはずなんだけどな。
「…どうして、いつの間に、そんな仲良く…」
「ああ、ヤキモチ?
安心しろ、俺が好きなのは美音だけだから」
「うわあああー…もう、ほんっと気持ち悪い…」
「…シバくぞ、このガキ」
ふ、と場の空気が和む。
美音がふんわり笑ったから。
こっち側、と指された俺の左側へ素直に移動する美音の柔らかさに頭を撫で回した。
途端にハッと息をのみ、顔中真っ赤に染め上げる美音。
「あ、相澤くん…あの、陽人くんは、まだ小学生…」
「何?刺激的だとか言いたいの?俺達が?
今ドキの小学生なんざ美音よりよっぽどススんでるぞ」
「そうだよ、美音ちゃん。
昨今の性教育なめちゃダメだよ」
「う…」
なんだかイジワル兄弟みたい、と。
美音は面白くなさそうに、でも可笑しそうに小さく笑う。
こんなクソ生意気な弟は要らないけどね。
と思ってたら陽人も同感らしい、げえ、と踏みつぶされたカエルのような声を上げた。
あのさ、美音ちゃん。
そう言って陽人はおもむろに切り出した。
唐突すぎるぞ、お前。
美音、ビックリしてんじゃん。
「この前は、ごめんね?
あの…いきなりキスして」
「は、あ!えっ?!
や、な、なな何を突然…っ!」
「激しく動揺すんな、美音。
陽人、その黒歴史は俺が濃厚に塗り替えてやったからこれ以上触れんじゃねえ」
先続けろ、と命じると、ほんっと相澤くんってキモいとかぬかしやがった。
こんのガキめ。
マジでいっぺんツボじゃねえとこにハリ刺すぞ。
「美音ちゃん、大丈夫?
オカシイよ?この人。
なんか騙されてんじゃないの?
あ、もしかして脅されてるとか?
変なクスリ飲まされてるとか?」
こんちくしょう、こめかみグリグリ決定だ。
そう思って美音の向こうを歩く陽人へ手を伸ばそうとした瞬間。
え、と美音の思いがけず大きな声に遮られた。
「そ、んなこと!ないよ!
相澤くんは綺麗だし賢いし優しいしカッコいいし見てるだけでほわーってなるし!
あの、大人だなあ、って思う一面もあれば子どもっぽかったり」
「…うん。
本人目の前にして言えちゃうくらいだから。
美音ちゃんも、オカシイね。お似合いだよ」
陽人の言葉じりがどんどん細く小さくなっていく。
それに気づいたのは俺だけじゃない、美音も。
頬の熱を押さえながら陽人くん?となされた語尾が上がる呼びかけに、陽人がピクリと反応する。
「……オカシイ?私?」
「……オカシイよ。充分。
あんな、凄い音 鳴らせるのに。
優勝 目指さないなんて、おかしいよ」
美音は俺の大切な彼女で、俺の独占欲が口を容易に割らせない、というのも勿論あるけれど。
陽人自身で向き合うべきじゃないのか、と思っていた。
陽人が動き、美音と話して、頑張らないんじゃなく頑張れないという理解の仕方もあると見出せれば。
コイツ、一皮むけんじゃねえの、なんて。
…ああ、俺って天使。
「訊いてみな?美音に直接。
ああ、でも必要以上の接近は禁止。
チューとかありえねえから」
―――そうして。
ピアノ教室を出た帰り道。
美音を右側に陽人を左側に従えて歩き出そうとしたけれど思い直した。
美音が車道側だなんて洒落になんねえだろ。
「美音?こっち側来て…ってお前」
どうした?と覗き込む。
美音の可愛い顔には不可思議現象を受け容れられないといった戸惑いの色が濃くて。
…俺が陽人を家まで送る、って話は、美音も聞いてたはずなんだけどな。
「…どうして、いつの間に、そんな仲良く…」
「ああ、ヤキモチ?
安心しろ、俺が好きなのは美音だけだから」
「うわあああー…もう、ほんっと気持ち悪い…」
「…シバくぞ、このガキ」
ふ、と場の空気が和む。
美音がふんわり笑ったから。
こっち側、と指された俺の左側へ素直に移動する美音の柔らかさに頭を撫で回した。
途端にハッと息をのみ、顔中真っ赤に染め上げる美音。
「あ、相澤くん…あの、陽人くんは、まだ小学生…」
「何?刺激的だとか言いたいの?俺達が?
今ドキの小学生なんざ美音よりよっぽどススんでるぞ」
「そうだよ、美音ちゃん。
昨今の性教育なめちゃダメだよ」
「う…」
なんだかイジワル兄弟みたい、と。
美音は面白くなさそうに、でも可笑しそうに小さく笑う。
こんなクソ生意気な弟は要らないけどね。
と思ってたら陽人も同感らしい、げえ、と踏みつぶされたカエルのような声を上げた。
あのさ、美音ちゃん。
そう言って陽人はおもむろに切り出した。
唐突すぎるぞ、お前。
美音、ビックリしてんじゃん。
「この前は、ごめんね?
あの…いきなりキスして」
「は、あ!えっ?!
や、な、なな何を突然…っ!」
「激しく動揺すんな、美音。
陽人、その黒歴史は俺が濃厚に塗り替えてやったからこれ以上触れんじゃねえ」
先続けろ、と命じると、ほんっと相澤くんってキモいとかぬかしやがった。
こんのガキめ。
マジでいっぺんツボじゃねえとこにハリ刺すぞ。
「美音ちゃん、大丈夫?
オカシイよ?この人。
なんか騙されてんじゃないの?
あ、もしかして脅されてるとか?
変なクスリ飲まされてるとか?」
こんちくしょう、こめかみグリグリ決定だ。
そう思って美音の向こうを歩く陽人へ手を伸ばそうとした瞬間。
え、と美音の思いがけず大きな声に遮られた。
「そ、んなこと!ないよ!
相澤くんは綺麗だし賢いし優しいしカッコいいし見てるだけでほわーってなるし!
あの、大人だなあ、って思う一面もあれば子どもっぽかったり」
「…うん。
本人目の前にして言えちゃうくらいだから。
美音ちゃんも、オカシイね。お似合いだよ」
陽人の言葉じりがどんどん細く小さくなっていく。
それに気づいたのは俺だけじゃない、美音も。
頬の熱を押さえながら陽人くん?となされた語尾が上がる呼びかけに、陽人がピクリと反応する。
「……オカシイ?私?」
「……オカシイよ。充分。
あんな、凄い音 鳴らせるのに。
優勝 目指さないなんて、おかしいよ」
