クラシック

寄り道、と眉根を寄せながら陽人は一旦、俺の言葉を反芻した。
何のかんの言いながらまだ話を聴く気はあるらしい。



「…学校からの帰りに、とかってこと?」

「まあな。
帰り道のパターンは3つくらい持ってないと」

「…決まった道を通って帰らないとママに怒られるよ」

「…そっか。まあ物騒な世の中だからな」



妙に反抗的な態度を見せる一面もあれば、あのママさんの言いなりだったりする。
大人ではない、でも全くの子供でもないこんな時期。
俺は親父から「コドナを楽しみなさい、奏」と。
言われた記憶があった。



「んじゃ、無理にとは言わねえよ。
いつもの道でいいからさ、脇道思いっきり覗き込んでみろよ。
どっかぶつかって、すっ転んで擦りむいたり、痛い思いすることあるかもしれんけど。
でも」



そこから見たこともない輝きが生まれたりする。
陽人に必要なのってそういう部分じゃねえの。
チラリとも瞳を逸らさずに、まだあどけなさを残す端整な顔立ちへ向かった。



…あ、コイツ。
イケメンになりそう。
やっぱ早めに潰しとかないと。



「…美音は。
寄り道してないと思うけど。
してないけど、いろんなことにぶつかってぶつけられて痛い思いしてすり減って、でも」



そのたびに面は増え光は増していく。
そんなんが美音の音をつくってると思う。
何故だかあの日。
初めて家まで送って行った夜、小さな窓から覗いた美音の小さな顔を思い出しながら言った。



「…怖い。
素人の言葉に感動しそうになった自分が怖い」

「素直じゃねーな、陽人。
泣きそうな顔してるくせに。
ちなみに俺には相澤 奏成という素敵すぎる名前がある」

「っ、し、てないし!
そんな素敵でもないよ!」

「してるよ。
そうやって男は一皮むけていかないとなあ」

「…相澤くんってヒワイ」

「…シモばっか想像してんじゃねえよ、このエロガキ。
卑猥、って字 書けるようになってから使いやがれ」

「シッ…!
いやでも今、ちょっと意識してたよね?!」

「聴く側にそんな意識があるからそう聴こえるんだろ、欲求不満。
何?貸してやろうか?そういう本」

「!!…っ、もうなんだって美音ちゃんこんなヤツと…!」

「アホだな。
俺は歩くブリリアントカットだぞ?
美音は世界一、男見る目がある」

「ワケ分かんない!」



笑いたいなら笑えよ、陽人。
両頬押さえて奇妙な表情で留まりやがって。
素直じゃない、扱いにくいネコかぶり。
俺もこんなんだったのかな。
腹の底から可笑しさがクツクツとこみ上げてきて仕方ない。



…あ、しまった。
美音の演奏、途中からほとんど聴けてなかった。
そう気づいて視線を陽人から美音へ移した瞬間。
美音の動きは止まり、美音の向こう側に座る先生が立ち上がらんばかりの勢いで拍手し始めた。
ブラボー、とでも言いだしそうに。



「凄いわ、美音ちゃん!
何があったの?!」