へえ、と咄嗟に平静を装えた俺を誰か褒めてくれ。
このクソガキよりは長い時間、ネコかぶってきたんだからな。
こっちだって相当意地の悪そうな笑みを口端に浮かべて(自覚あり)無関心を纏うくらい何てことない。
……そう、何てこと、ない。
「どうせあれだろ?無理やりなんだろ?
お前ね、注意しなよ?
行き過ぎると犯罪になんだから。
欲求不満のはけ口ならエロ本とかに求めなさいね?」
「!…っ、違っ…」
「本当に美音ちゃんが好きなんだとかぬかすなよ。
好きな相手の音、そんな憎々しげな表情で聴いたりするもんか」
それ以上喋んな、という意味を籠めて俺は今日最高の低声でクソガキを睨みつけた。
いきがっててもガキはガキだ。
俺が和に対して感じる圧倒的な差のようなものをコイツも今、抱いているはず。
男同士には何となく、敵わないと悟れる(でも抗いたくなるんだけどね)察知力があるんだ。
俺へと向けていた小さな顔を美音へと据えると、喉の奥で唾液をク、と嚥下した。
「……にくにくしげ…?」
「だな、その表現が一番ぴったりくると思うけど。
美音の音を妬んでるっぽい。
お前も相当巧かったのに」
「…音を、妬む…。
お兄さん、ド素人のくせになかなか良いこと言う」
「いちいちトゲあんな、ガキ」
クソを付けるのは胸の内だけにしてやるよ。
てかもう喋んな、マジで。
美音に集中させろっての。
「…ねえ、お兄さん」
「…んだよ、うるせーな。
お前、美音の練習 大人しく聴くんじゃなかったのかよ」
「大人しく、とは言ってないよ。
ねえ、今 美音ちゃんが弾いてるこの曲、どんな感じがする?」
俺も舌打ちしてやろうか、まったく。
細かなとこ指摘しやがって。
だけど俺は気づいてしまった。
少し低い位置から俺を見上げる瞳に心細そうな、年相応の色が宿っていること。
…騙されんな、俺。
これもコイツの芝居かもしれない。
それはご大層なネコ様をかぶっておいでなんだから。
それでも逸らさず与え続けられる眼力は、真摯に応えない理由にはならないと思った。
「…この曲聴くの、今日で2回目でさ。
前に聴いた時なんて俺、居眠りこいた。
気持ち良くて」
「…不真面目で変態っぽいよ、そのコメント」
「るせ、黙ってろ。
で、な?夢の中でたぶんこの曲聴いてて。
嵐みたいな風が美音も何もかんも攫っていくわけ。
不気味だし追いつけないし」
「風…」
ポツリとクソガキはその一言を漏らした。
さっきまでの人を食ったような様は消えうせ、神妙に肩を落とし口を真一文字に結ぶ。
唇を舐めため息を吐き、そうしてようやく次を口にする。
「…ド素人なんだよね?お兄さん」
「…マジしばくぞ、テメ。
ピアノは5歳の頃に2か月だけ習ったよ。
ドレミくらいは分かる」
「…でも、風を感じたんだよね?」
俺は素直にコクリと頷く。
確かに感じた。
見えたと表現していいかもしれない。
何て言ったっけ?
印象派、だったか。
繊細な色づかいと技巧で描かれる絵画のように、荒々しく吹きすさぶ風が見えた。
俺がそう口にするにつれ、クソガキの表情はうち萎れていった。
このクソガキよりは長い時間、ネコかぶってきたんだからな。
こっちだって相当意地の悪そうな笑みを口端に浮かべて(自覚あり)無関心を纏うくらい何てことない。
……そう、何てこと、ない。
「どうせあれだろ?無理やりなんだろ?
お前ね、注意しなよ?
行き過ぎると犯罪になんだから。
欲求不満のはけ口ならエロ本とかに求めなさいね?」
「!…っ、違っ…」
「本当に美音ちゃんが好きなんだとかぬかすなよ。
好きな相手の音、そんな憎々しげな表情で聴いたりするもんか」
それ以上喋んな、という意味を籠めて俺は今日最高の低声でクソガキを睨みつけた。
いきがっててもガキはガキだ。
俺が和に対して感じる圧倒的な差のようなものをコイツも今、抱いているはず。
男同士には何となく、敵わないと悟れる(でも抗いたくなるんだけどね)察知力があるんだ。
俺へと向けていた小さな顔を美音へと据えると、喉の奥で唾液をク、と嚥下した。
「……にくにくしげ…?」
「だな、その表現が一番ぴったりくると思うけど。
美音の音を妬んでるっぽい。
お前も相当巧かったのに」
「…音を、妬む…。
お兄さん、ド素人のくせになかなか良いこと言う」
「いちいちトゲあんな、ガキ」
クソを付けるのは胸の内だけにしてやるよ。
てかもう喋んな、マジで。
美音に集中させろっての。
「…ねえ、お兄さん」
「…んだよ、うるせーな。
お前、美音の練習 大人しく聴くんじゃなかったのかよ」
「大人しく、とは言ってないよ。
ねえ、今 美音ちゃんが弾いてるこの曲、どんな感じがする?」
俺も舌打ちしてやろうか、まったく。
細かなとこ指摘しやがって。
だけど俺は気づいてしまった。
少し低い位置から俺を見上げる瞳に心細そうな、年相応の色が宿っていること。
…騙されんな、俺。
これもコイツの芝居かもしれない。
それはご大層なネコ様をかぶっておいでなんだから。
それでも逸らさず与え続けられる眼力は、真摯に応えない理由にはならないと思った。
「…この曲聴くの、今日で2回目でさ。
前に聴いた時なんて俺、居眠りこいた。
気持ち良くて」
「…不真面目で変態っぽいよ、そのコメント」
「るせ、黙ってろ。
で、な?夢の中でたぶんこの曲聴いてて。
嵐みたいな風が美音も何もかんも攫っていくわけ。
不気味だし追いつけないし」
「風…」
ポツリとクソガキはその一言を漏らした。
さっきまでの人を食ったような様は消えうせ、神妙に肩を落とし口を真一文字に結ぶ。
唇を舐めため息を吐き、そうしてようやく次を口にする。
「…ド素人なんだよね?お兄さん」
「…マジしばくぞ、テメ。
ピアノは5歳の頃に2か月だけ習ったよ。
ドレミくらいは分かる」
「…でも、風を感じたんだよね?」
俺は素直にコクリと頷く。
確かに感じた。
見えたと表現していいかもしれない。
何て言ったっけ?
印象派、だったか。
繊細な色づかいと技巧で描かれる絵画のように、荒々しく吹きすさぶ風が見えた。
俺がそう口にするにつれ、クソガキの表情はうち萎れていった。
