クラシック






生徒会の活動なんて、一般的な公立高校だとさほど活発でもない。
でもさすがに今日は終業式。
冬休み中の注意事項なんぞ、全校集会で滔々と述べなきゃならない。



俺、これまた今さら気づいたんだけど。
美音と堂々と隣に並んで居られる貴重な時間なんだ、体育館での集会って。
「あ」から始まる仲良し同士だからさ。



なのに何が悲しくて先生方の列に紛れてなくちゃならないんだ。
じゃあ相澤、登壇してと教頭先生に促され、俺は軽く会釈をする。
階段を一段ずつ上るにつれザワ、と色めく集団のあちこちから向けられる色は、同じ好奇でも今までと少し違って見えた。



不思議なもんだな。
今までも翔太の顔はいくら目が悪くてもちゃんと捉えることが出来てた。
今日は美音なんて、浮かび上がって見えるんだけど。
色白なせいだと自分自身に言い聞かせようとして、まあ別に誰に聞かれる訳じゃなし、誤魔化す必要もないのか、と可笑しくなる。





「…では。
以上の点に十分留意し、全員が元気に新学期を迎えられるようにしましょう」



なんて魂の籠ってない通達なんだと我ながら苦笑する。
てか早く俺の位置に戻りてえんだよ、美音の隣にね。
隣のクラスのヤツだとか背後の伊野だとかに話しかけられっぱなしで、さっきから美音は俺のことなんか見ちゃいねえし。
俺のこめかみに怒りマークが浮き出てんじゃねえのかな。



「…相川美音さん?」



勢いよく壇上を振り向く美音の驚いた表情に軽く満足感を覚える俺は変態かもしれない。
マイクを通して体育館内へ響きわたる俺の声は、自分の声じゃないみたいだ。
ざわめきがあちこちで湧き起っている。
…あれを思い出した。間欠泉?



「よそ見しないで俺だけ見て。話も、ちゃんと聴くこと」



まあ、全校集会で一個人へ向けて言う注意事項でもないよな。
かなーり意味深だし。
ヒャアヒャアと広がる奇妙な歓声を背に俺は薄く笑いを浮かべながら壇上を下りた。
下りた先に並んだ先生方のあんぐりと開いた口には、心底からの笑いがこみ上げてきたけどね。






「…美音?」

「………」



並んで帰る美音は朝と同じようにマフラーで顔の半分を覆い隠している。
まだ怒ってんのか、全校集会でのこと。
あの後、教室に戻るまでも戻ってからも下校する間際まで囃し立てられてたからな(俺をひやかす強者は、まあ居ないし)。



美音には申し訳ないけど、これで晴れて公認だろ。
使える力は使ってみるもんだ。
こんな腹の中、美音には見せらんねえな。



「美ー音!返事は?」



ハッとしたように俺を見上げる美音の眉間には苦悶のシワが寄せられていた。
なんかそそられるけど、それも。



「お前ね、可愛い顔が台無し」

「…っ、か、かわ…。
やっぱり、スケコマシなの?相澤くん」

「おうおう、ちょい待て。
やっぱり、ってのは何だ!なんなんだその接続詞!」



聞き捨てならねえな。

言いながら美音の眉間を指で摘まむ。
あう、って何だそれ。
可愛いじゃねえか、チューすんぞこの。



「し、しーちゃんが!
あんな、歯が浮くようなこと言えるのは!
ホストかオカマか相澤か、って!
スケコマシだよ注意しなさ…って!
痛いよ!相澤くん!」

「俺は心が痛えんだよ!
純情青年の胸の内を弄びやがって、ズタボロだぞ。責任とれ」



2人の時はそれでも臆せず振る舞うようになった美音。
オデコを押さえながらふふふ、とほんわり笑っている。
ダダ漏れるような熱い想いをいつも痛烈に感じる訳じゃない。
俺より長く密やかに静かに胸に温めてきたであろう、それ。
ここ数日間で急激に意識した俺の方が、きっとより溺れてるんだ。





「なあ。
レッスン室の中で待っていいのか?俺。
部外者だけど」

「うん…広いから。大丈夫だと思うわ。
陽人くんもお友達連れてくることあるし」



今日はピアノのレッスン日だという美音に俺はのこのこ付いて行ってる。
いや、のこのこじゃねえけど。
のこのこのフリして、ちゃんと目的あんだけど。
コンクールに出場するメンバーだけの特別レッスンらしい。
…ってことは。



アイツも来るってことだ。
美音にチューしやがったクソガキも、ね。