クラシック




「…っ、あっ!」

「……うー…そりゃなあ。
こうなるよなあ」



目ぇ閉じたまま闇雲に近づいてきたって、美音。
そりゃあ、デコが眼鏡にぶつかるだろ。
もうお前、反則技だ。
涙目で可愛くデコ押さえてんじゃねえよ。
この至近距離で、俺、死ぬわ。
苦笑しながら眼鏡を直す。



「もうね、美音。
言って?するならする、って。
眼鏡にぶつかんないようにキスとか、できんの?
そんな高等テク。使えんの?」



あーもう、恥ずかしくてたまんね。
妙に早口で饒舌になってしまう。
いや、美音も俺以上に恥ずかしいだろうけど。



「……高等テク、なんだ…。
相澤くん…使えるんだ…」

「アホなんだな?お前。
誰が使えるっつった?
自慢じゃねえけど初めてだからな、俺は」



美音と違って、と喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込んだ。
…飲み込めて良かった。
もうマジ、泣かせたくないからな。
それでも、美音には俺の意図するところが伝わってしまったらしい。



「…だから、あの…。
せめて、自分から、と…」



おーお。
泳いでんな、美音の黒目。
こんだけ近ければよく分かる。
ウルウルしてさ、長い睫毛はしっとりしてるしさ。
これで俺のこと煽ってないって抗議されても説得力ゼロだろ。
両耳まで真っ赤だし。



「うん。して?も1回」

「…やっ、あの!
勇気が、尽きまして…!」

「頑張れ、美音。
も1回、奮い起こせ」



外してから思い出した。
和が教えてくれた眼鏡の外し方。
色っぽく伏し目がちに、だったっけ?
美音限定スペシャルバージョンだったはずなのに。



「!……っ」

「…お前ね。
今ここでそんなエロい反応すんなよ。
キスだけで終わってやんねえぞ」



結局、美音は。
目を瞠ったまま微動だにしなくて。
仕方ねえな、って言いながら。
俺の口元は緩んでいく。
顔も?破顔してるかもな。



キスの仕方も。
ましてやその先とか。
誰も教えてくれないけどね?
でも、知ってんだ。
情報化社会、万歳だ。



繋いでいた手を名残惜しく解いて。
美音の小さな頭に両の手を添えて。
その掌は自然と頬に下りていく。
重ねた唇は、当たり前だけれどひどく冷たくて。



(…すっげー…)



活字からもアニメからも。
こんなの、感じ取れない。
何なんだ、この柔らかさ。
ビックリする、この気持ち良さ。
ああでも、息っていつどうやってすんの?
これ、くっついてんの長過ぎる?



「…っ、は…あ…」

「…ふ。何?息継ぎ?」



ただ、合わせていただけだったそこを。
一旦離せば、美音の口から吐息が漏れた。
またもう、この小悪魔め。
色っぽい声、聴かせてくれるんじゃねーよ。
ああ、押さえんな、手の甲で。



「…今の、お手本な?
はい、次は美音から」

「…っ、む、無理…っ!」



仕方ねえな、って。
俺は知らず舌で唇を舐めた。
あ、すっげえやらしく見えたんだな、この仕草。
美音、目こぼれ落ちそう。



何回目でも、何人目でも。
いいか、って簡単に割り切れるほど俺は大人じゃないんだけど。
それでも、きっと。
こんなに気持ち良いのは、美音も初めてだってすんなり信じられる。
重なっている柔らかで優しく薄い皮膚は、好きだって想いをこんなにも伝え合ってくれてるから。



……おお。
俺って、意外とロマンチストなのな。