クラシック




「…ごめんなさい。
そんな、突き放すとか…」

「今から、全部知ってくから。
今からの、美音は見逃さないし。
てかマジ逃げらんないからな?お前」



うーん、ここで和の魅惑のスマイルが出来ればな。
そんなスキルはねえんだけど。
俺の言葉の深意は伝わっているのかいないのか。
熱っぽくほんわりと見上げてくる美音の笑顔に何かを失くしていきそうだ。
理性とか、自制心とかね。



「…で。
教えて?
2週間前、何があった?」



途端に美音の表情は硬くなり視線を逸らされてしまう。
縋るように追いかければ、うー、と奇妙な呻き声。



「…ピアノの、特別レッスンの日で。
なかなか…上手くいかなくて。
思ったように、指が動かなくて」



レッスン室から先生が出て行ったほんの少しの間、美音の次にレッスンを受ける生徒が教室へ入って来た。
気配にも気づかずボンヤリと何が原因か考えていた美音の唇に。
何かが触れたのは、その時。



「………。
どんなヤツ?そいつ」

「……若松 陽人くんって言って。
同じ、コンクールに出るの。
特別レッスン受けてて…」

「…ガッコどこ?」



尋問もいいとこだ、これ。
校名突き止めて待ち伏せでもする?
とりあえず一発ボコっとく?
俺の彼女に何してんだ、って。
不意打ちキスとか、卑怯だろ?
てか恋を始めたかったんですか、っての。
テレビだか漫画だか見すぎだろ。




「…附属小学校、だったかな」

「…しょうがくせい?!」



……それは。
それはそれは。
何と言うか、カウントすべきもの?
ガキんちょにチュ、とか。
赤ちゃんほっぺたにチュ、と同じレベルじゃね?



…いやでも。
昨今のガキはマセてるからな。
小学生っつっても、幾つなんだ?



「……6年生。12歳、かな」

「…う、んー」



あああ、分かんね。
妬いたのは勝手に想像した野郎に対してだった。
うちのガッコのヤツとか。
美音にコクったヤツとか。
渡部みたいな伏兵がまだいたのかとか。



…12歳って。
俺、どんなだった?
あからさまに異性を意識してた?
キス、とか。
したかったっけ?
興味あったか?



「…ごめんなさい、こんな話…」

「や、聞きたがったのは俺だ」



繋いでいる手は俺のポケットの中。
指に力を籠め美音の柔らかな反応を楽しんでいる。
この状態じゃ撫でたり頭ポンポンがしにくいな。
俺は美音の頭へ頬をすり寄せよしよし、と呟いた。



「…嫌だったんだよな。
ごめん、思い出させて」



そんなこと、と美音は言う。
力なくそうっとため息を吐いて。
肩を落としとぼとぼと歩く様は何とかしてやりたくなる。
勝手に妬いて暴言吐いた俺がバカみたくガキに思える。
本当に、ごめんな。美音。



「よし。じゃあ、するか」

「…相澤くん。
じゃあ、の使い方が意味不明です」

「……うるせーな。
上書きだよ、上書き。
お決まりだろ?」